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記事: Blog2 Post

渡部幹雄和歌山大学教授(大学図書館長)※ にお聞きしました

  • 図書館フレンズべっぷ
  • 2022年9月3日
  • 読了時間: 6分

 いよいよ別府市でも新しい図書館づくりに向け、「別府市図書館美術館建設基本計画」策定事業※が始まりました。

 今日は、和歌山大学図書館長の渡部教授※に図書館づくりについてお話を伺いました。先生はこの基本計画には関係されていませんが、緒方町、森山町、愛知川町で公共図書館づくりの経験があり、現在も国内県内の図書館づくりに数多く関わられています。


※注:おことわり)この記事は2016年に会報誌に記載されたものであり、渡部幹雄氏の所属・役職、別府市の事業については当時のものとなります。


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優れた図書館は、書棚と職員を見れば判る


専門的知識とホスピタリティーを持った職員が豊かな書棚を形成する





質問1)新しい図書館を立ち上げることについて、どのように考えたら良いでしょうか?


 図書館に対するイメージは、市民の皆さんさまざまだと思います。図書館という建物や場所が有り、そこに本があれば、それが図書館と多くの方は思っています。本好きの限られた人の行くところ、受験生の勉強部屋とかいうイメージが、別府ではまだ強いのではないでしょうか。

 しかし日本では昭和40年代に始まった図書館改革で、各地に先進的な図書館が生まれ、従来のイメージを大きく変えてきました。それは、全ての市民へのサービスを目標にすえ、誰がどんな目的で来ても応えることのできる豊かな資料を揃えるとともに、その資料が探せるように検索ツール、職員による資料案内・レファレンスサービスを充実させ、資料の貸出をサービスの中心に据えたことです。大幅に利用者が増え、それまで図書館に人が来なかったのは本を読まない人が多いからではなく、資料が揃ってなかったのが原因だったということが証明されたのです。

 図書館を訪れる市民は様々な目的を持っています。自分自身の能力アップや楽しみのため、教育や子育てのこと、まちづくりや観光産業を初め農漁業、製造業などの情報、文化・芸術・スポーツなどについて調べたいなど、全ての市民がそれぞれに「知りたい、学びたい、楽しみたい」と思っている気持ちにこたえることのできる図書館が大きく拡がっていきました。その結果、今まで図書館には縁の無かった市民が図書館を利用するようになり、図書館もそれにこたえようと資料を集め、サービスが豊かになってきました。

 私は、世界十数カ国の図書館、日本各地の図書館を見てきましたが、優れた図書館は、書棚と職員を見れば判ります。専門的知識とホスピタリティーを持った職員が努力すると、豊かな書棚が形成されます。魅力ある書棚の前に立つと、あれもこれも手に取ってみたくなり、つい時間を忘れてしまいます。このような書棚を形成することのできる職員は、利用者の持ち込む情報や問題意識にもとても敏感です。

 以前、図書館長をしていた滋賀県愛知川町(市町村合併で現在は愛荘町)の図書館では、ビオトープやモンゴルのゲルを図書館の外庭に作ったり、コンサートや展示会など、図書館利用者の情報や協力で多様な活動が拡がっていきました。「図書館を遊ぶ」という本を出しましたが、図書館の基本である資料と職員の充実を図れば、住民はそれに触発され自発的にいろんな活動を始める事を多くの人に知って欲しかったからです。

 別府でも、いい図書館ができれば、多くの市民が多くの本を読み、ものを考える市民が育ちます。そのことが、地域に活力を与え未来へと繋がります。目先のことだけでなく、将来にわたって発展する図書館や美術館の構想を作ることが検討課題でしょうね。



図書館に対する多様な期待を持った市民を満足させるためには、

理念と専門知識が必要


質問2)将来にわたって発展する図書館や美術館そのためにはどのようなことが大切でしょうか?


 図書館や美術館を作るということは、図書館、美術館と呼ばれる建物や施設を作ることだけではありません。その運営の仕方で、全てが決まると言っても過言ではないでしょう。基本計画で運営構想を明確にすべきではないでしょうか。

 図書館や美術館についてはっきりとした理念を持ち、経験を積んだ専門家の意見を、構想にどう反映させるかが大切になります。

 図書館の事を深く知らない人でもその人なりの図書館イメージを持つことができますが、図書館に対する多様な期待を持った市民を満足させるためには、理念と専門知識が無ければその構想は独りよがりになります。同時に構想の次の段階、実施計画を立て実現するためには、能力と気概を持った館長や職員をいかに早く配置できるかが大きなポイントです。できれば、計画段階からそのような人に入って欲しいですね。

 私が愛知川で、図書館を作るときは、準備段階から職員として雇用され、開館後は館長をつとめました。職員も有能な人を確保することができ、明快なビジョンを持ち準備、運営をすることができました。滋賀県の図書館の急速な発展は、全国から図書館のために働こうとする職員を得たことで実現したのです。



質問3)「理念」ということですが、どのようなことでしょうか?


 図書館を作るとき、素敵な建物ができ、本があって、そして人が集まれば良いと思いがちですが、下手をすると話題づくりが図書館の目的になったりすることがあります。目新しいことやイベントなどで人目を引こうとしても、賞味期限は限られます。図書館本来のサービスが充実し、図書館への信頼と共に利用が増え、多くの市民に支持される図書館に成長することができるかが最も大切なことなのです。

 それは、図書館とはそもそも何なのか、どのような役割を果たすべきなのかという理念がなければできません。国立国会図書館には「真理がわれらを自由にする」という言葉が掲げられています。日本図書館協会が制定した「図書館の自由に関する宣言」を図書館入り口に掲げている図書館もあります。またよく知られたものとして「ユネスコ公共図書館宣言」などは世界共通の認識となっています。図書館とは民主主義社会を支え発展させるシステムだということです。

 資料そのものはいろんな価値観を持った人が書いたものですから、本を揃えるとき特定のものに偏らず、公平中立の立場で幅広くバランスの良いものにする。同時に入門書から放送大学程度の専門書、子どもから大人までを意識した資料、障がいのある人のための資料、日本語以外の資料、どのような利用者が来ても全ての分野で一通りの基本的な図書が揃っている書棚を作らなければなりません。

 そのためには一定額の資料費が必要ですし、本の出版状況や地域の状況などに詳しい職員が必要です。日本図書館協会が制定した「図書館員の倫理綱領」という文書もあるので是非読んで下さい。図書館職員が民主主義社会を支えるという「理念」を持って働くことで、図書館は発展していくのです。


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図書館フレンズべっぷ通信 第1号より

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